夕刻、忙しい仕事のヤマを越え、俺は窓から安達太良の山稜を眺めていた。

「キタノさん、なにを見てるのですか」
若い部下3人娘が不思議そうな眼差しで俺を見つめていた。冬物のスリー
ピースの背広がとても重く感じる。

『安達太良の山が綺麗でね。つい見とれていたんだよ』

「日曜日も登られたのでしょ。随分と安達太良がお好きですこと」

『ああ、あまりにも惚れこんで小説まで書いたことがあるんだ』

「キタノさんが、小説?意外だわ。是非、ストーリーの内容を教えてください」

俺はタンデムのあらすじを語った。

「そのお話って、実話なんですか?」

驚いたことに3人とも完全に号泣していた。

『一応、フィクションだ。ただ、どう捉えるかはきみたちの自由だよ。でも、
 俺は今でも暇があれば安達太良に登ることは多い』

「そんな話を訊かされたら今夜、哀しくて眠れなくなっちゃうわよ」
 ひとりが目を真っ赤にしながら呟いた。

かっこよ過ぎる展開だが、先刻あった紛れもない事実だ。

しかし、この人たちの感受性は、あまりにも強過ぎる。

なんだか、どうでもいいようなことに揚げ足をとるネットゴロツキが多い中、
彼女たちの優しい心根が純粋過ぎて、とてつもなく心配になってしまった。

おまえら、大丈夫か?

近い将来、悪い男に騙されないかな?

キタノの読み物の魔法に少しかかっているようだ。

妄想もかなりあるよというのを忘れてしまった。

もう〜、そうなの・・・